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​プロローグ ~未来からの使者と猟兵


「エンディカ、出来たわ……」

 目の前に飛び込んでくるのは、新しく出来たばかりの、浮かんだ機械仕掛けのキューブ。
 呟く少女の眼鏡には、その浮いているキューブが映り込んでいた。
「……そう。よかった」
「相変わらず、素っ気ないわね……まあいいわ。さ、これで行けるわよ。エネルギーは往復分チャージ済みだし」
 眼鏡の少女……キサラ・K・ヤメは、浮いていたキューブを手に、もう一人の少女の方を見た。
 仮面をつけ、制御装置らしきものを漂わせている。そして、その服装はどこかの巫女を思わせるもの……。
「エンディカ、本当に行くの?」
「……ええ。このままにしたら、世界が滅びるもの」
 仮面をつけた巫女……いや、エンディカは静かにそう告げた。
「過去の世界に行って、助けを求める……悪い案ではないけど」
 くいっと眼鏡を直して、キサラは続ける。
「あなた一人じゃ、重すぎない? それに、このキューブは私じゃないと使えないのよね」
「……キサラ」
「というわけで、私も行くわ。あなただけに行かせると、救えるものも救えない気が大きいし。ほら、あの数値」
 キサラのいう数値というのは、エンディカの予言的中率のことだ。
 こう見えても、エンディカは予言の巫女だった。その予言を得る時間はランダムで、突然、何かを受信し、それを口にする。だからこそ、エンディカには、その予言を収集し、エンディカを守る為のセキュリティリングが付けられている。
 話を戻そう。
 予言は多岐に渡る。大小さまざまな予言が収集され、それが一致したかというデータが今まで取られていた。特に日常的なもの……人命に関わらないものに関しては、ハズレが多く、滅多に当たることはない。
 しかし……それが人命、特に大多数の人々の命がかかわることに関しては、90%の確率で言い当てていた。
「なのに……研究所の人達は、全く信じないし! それで助かったときもあったっていうのに、何なのもう! しかも、エンディカは役立たずだから、数年たったら捨てようだなんて、ホント、人の心があるの? この研究所の人達は!!」
「その分、キサラは有能。タイムマシンキューブも作っちゃった」
「それはいいの!! 私はね! そんなこともわからないやつらに、エンディカを捨てさせないわ! エンディカ……私達で世界を救って、あいつらにぎゃふんと言わせましょう!!」
「……ぎゃふん」
「だから、なんでそこでエンディカがぎゃふんっていうのよ……まあとにかく」
 キサラはちょっと疲れた様子で、キューブを操作する。
「善は急げよ! エンディカ、手を」
「……キサラ」
 手を差し伸べる前にエンディカは切り出した。
「なに?」
「ありがとう」
 そういって、エンディカがキサラの手に自分の手を重ねた瞬間、まばゆい光に包まれ、そして。
 ――二人は過去へと逆行したのだった。


 大正25年。皆既月食の日に起きた『審判の刻』。
 恐ろしいゾンビに襲われる事件――妬鬼姫戦線では、当時の住民達の力によって、事件を解決に導くことが出来た。
 その解決には、多大な犠牲も伴ったが……それでも人々は、取り戻した日常を謳歌していた。

 ――そのときまでは。


 カチッとした洋服を身に纏うのは、夏目海斗。彼は一冊の革の本を開き、叫ぶ。
「夏目海斗が命じる! さあこい、ファイアードラゴンっ!!」
 と、その言葉と共に、本から巨大な魔法陣が展開し、そこからひときわ巨大な赤い色のドラゴンが飛び出してきた。
「目の前の……ゾンビ達を燃やし尽くせ!!」
「ガアアアアアアア!!!」
 海斗の言葉通りに、ドラゴンは口から吐いた炎で、ゾンビ達を燃やし尽くした。
「……ったく、原稿を出版社に持っていったら」
 苛ついた声で海斗は叫ぶ。
「なんで倒したはずのゾンビがうじゃうじゃいるんだよぉおおおお!!!」
「いや、マジですまん」
 思わず、悪くないのに海斗の幼馴染で、桜塚特務部隊の正式隊員として任命された山本涼介が、アサルトライフルでゾンビ達を蹴散らしながら謝っていた。
「お前の所為じゃないだろ、コレ!」
「いや、なんとなく」
 涼介のアサルトライフルから発射される弾丸は、光を帯びて、軌道を曲げながら、必ずゾンビの頭を潰していく。
「とにかく……こいつらは、倒さないとダメだって、グラウェルさんもカレンさんも言ってたから……」
「ああ、分かってる。帝都に入る前に、さっさと潰す……と言いたいけど、コレ、多くないか?」
 徐々に押され気味になる海斗と涼介は、顔を見合わせ苦笑を浮かべる。
 ここは、帝都の外れの河川敷。既に桜塚特務部隊が付近にいた人々を避難させて、安全は確保されていた。
 二人がすることは、目の前にいる謎のゾンビを全て倒すこと。
「ちょっと!! それでも英雄なんでしょ!? もう少しシャキッとして!! 私も手伝うから!!」
 そこに現れたのは、白衣姿のまま駆け付けた小鳥遊キヨだ。
 とたんに海斗と涼介の体に、更なる力が付与された。相手の持つ力を最大限に引き出し、大きな力を発揮させる力だ。
「おうっ!!」
「サンキュ!! 行くぜ、海斗!!」
 二人はキヨの力を借りて、劣勢を逆転させて、その場にいたゾンビ達を一気に殲滅させたのだった。

 


「とはいえ……どうしてゾンビが出てきたワケ? 私の研究する時間が無くなっちゃったわ」
 そう文句を言うのはキヨだ。つけていたヘッドホンを肩にかけて、大きなため息をつく。ここは桜塚特務部隊が利用している、先日出来たばかりの基地内部。その会議室にて三人は休憩がてら話をしていた。
「さあ……文句言いたいのは、こっちだよ。これで5回も出撃してるんだぜ……死にそう」
 テーブルに突っ伏して、泣き言を言うのは涼介。新しい制服が着れて嬉しかったのだが……なぜ、このような事態になったのか見当がつかない。
「おかしい」
 海斗が告げる。
「そうね、おかしいわね」
「前に俺達、妬鬼姫倒したもんな?」
 そう、涼介達はその戦いに参加して、勝利し、平和をもぎ取ったはずだった。
 それなのに、突然、ゾンビが現れた。
 幸いにもワクチンがあるので、ゾンビにならずに済んでいる。しかも、出て来るゾンビは未来から来たゾンビだらけだ。
「グラウェルさんもカレンさんも、どうしてこうなったか分からないっていうし……まだなんか起きるっていうのか?」
 そう海斗が告げた時だった。

 ――カッ!!

 

 眩しい閃光がその部屋を包んだ。
「眩しい!!」「なんだ!?」「これはっ!?」
 ようやく目が慣れた頃に……バリバリバリという、何かが裂けるような音が響いたかと思うと。
「あいたっ!!」
 そんな声と共に現れたのは、床で尻餅をついている、眼鏡をかけたあの少女……キサラと。
 ふわりと降りて来る不思議な輪を漂わせた仮面の少女、エンディカがそこに現れた。

 

「あなたたちは一体……!?」
 キヨの声に二人は向き直る。
「初めまして、私はキサラ・K・ヤナ。そして、そこにいるのは、予言の巫女の……」
「エンディカ」
 キサラとエンディカが名乗ってきた。
「君達は……?」
 海斗の言葉にキサラは続ける。
「私達は、あなた達のいる時代から、遥かずっと未来から来ました。この世界を救うために」
「世界を救う……だって!?」
 キサラの言葉に涼介は驚きを隠せない。
「じゃあ、あのゾンビのことを知ってるの?」
「……ゾンビですって……?」
 キヨの言葉にキサラの顔が曇る。そのときだった。

「予言します。世界はまもなく、滅びるでしょう。それを救うためには繰り返し――リフレインが必要です」

 

 突然、エンディカが話し始めた。
「時と世界を越えて、リフレインするのです。そうすれば、おのずと滅びの未来は覆されるでしょう」
 そう言い終えて、エンディカの体に力が抜けた。
「大丈夫、エンディカ?」
「……ええ」
 それを咄嗟に受け止めたのは、キサラだ。
「言いたいこともあると思うけど……私もまだよくわからないの。この世界に来たばかりだし。けど、この時代に原因があるというのは分かってるわ。だから私は、エンディカとこの世界に来た」
「滅びの未来を、救うために……」
 そう告げるキヨの言葉にキサラが頷く。
「じゃあ、あんたが時間を行き来する、その機械で連れてってくれるのか?」
 涼介が尋ねる。
「これはダメよ! これは私とエンディカが元の世界に帰るためのものよ! ……けど、あなたの言うとおりね。この機械は過去と現代を行き来できるけど……それは往復だけなの」
「じゃあ、どうしたら……」
 海斗がそう告げた時だった。

 

「お困りのようですね。力になりましょうか?」
「えっ!!?」
 そこに声をかけたのは……背中に白い天使の羽を持ち、長い金髪には花が咲いている不思議な女性だった。
「あ、申し遅れました。私は響納リズ。猟兵……いえ、グリモア猟兵の一人です」
「って、いつからいたの!?」
 リズはにこっと微笑み。
「キサラ様が自己紹介する、少し前ですわね」
「……お姉さん、天使なのか?」
 興味深そうにその背の翼と髪を見て、海斗が尋ねた。
「いいえ、私はオラトリオです。エンジェルではありませんわ」
「なっ!? 天使……いや、エンジェルもいるっていうのか!?」
 驚く海斗にリズはにこやかに頷いて見せた。
「そんなことはどうでもいいわ……リズさんとか言ったわね。力になるってどういうこと?」
「グリモア猟兵には、様々な世界にテレポートできる力があるんです」
「と、いうことは……このキューブの力を使わなくても、移動できるというの!?」
「……恐らく。実は私もここに偶然飛ばされてしまって、どうしたらいいのかしらと思ってたところなんです」
 次から次へと問題が出て来るが……と、リズの前にエンディカが立つ。
「手を出して」
「はい。こうですか?」
 エンディカに言われて、リズが手を差し出すと、エンディカはそれに重ねて。

 

 ――ぱああああああ。

 

 暖かな光がリズを包み込んでいった。
「これで大丈夫」
「ちょ、ちょっと待って!! エンディカ、その力、なに!?」
 きょとんとした顔でエンディカが首を傾げた。
「やってみたら、できちゃった」
「じゃないわよっ!!」
 とエンディカとキサラが言い合っている間に。

 

「あの……皆様。皆様が行きたい場所とは……こちらですか?」
 リズは異世界への扉を開いていた。どうやら、妬鬼姫戦線の審判の刻の世界と、ゾンビ達があふれるアナザー世界へと、順番に。

 

 こうして、彼らは新たな事件に巻き込まれることになる。
 滅びの運命にあるこの世界を救うため、平和な未来を再び取り戻すために。

 

 ――英雄達よ。世界をリフレインし、滅びの危機を救え!!

●NPC紹介

キサラ・K・ヤメ

とある研究所にて、生活をしている天才少女。
タイムトラベル(往復のみ)できるパソコンキューブを所持し、エンディカと行動を共にしている。

​とあるキャラの子孫でもあるが……。

キサラ.png

エンディカ

予言の巫女で、今回の事件を予知した少女。

仮面と、彼女を守護し、彼女の予言を収集するセキュリティーリングをつけている。そのため、足は常に浮いている状態になっているようだ。

​いつも、そっけない言葉を発しているが、その真意は……?

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夏目 海斗(なつめ かいと)

前回の妬鬼姫戦線にて、無事生き残り、英雄の一人として名を連ねる青年。
​当時はまだ、作家を志す学生としていたが、今では、なんとかファンタジー作家(まだ人気ではない)となり、貧乏ながらも地道に努力中である。

​よく、涼介と共にゾンビ狩りに駆り出されている。

海斗.png

山本 涼介(やまもと りょうすけ)

前回の妬鬼姫戦線にて、無事生き残り、英雄の一人として名を連ねる青年。
​当時は桜塚特務部隊の候補生であった彼も、正式な隊員として、日夜、訓練を重ねている。

最近はよく出て来るゾンビ達に辟易しているらしい。

​妬鬼姫戦線で、彼の妹の百合が犠牲になっている。

涼介.png

小鳥遊 キヨ(たかなし きよ)

前回の妬鬼姫戦線にて、無事生き残り、英雄の一人として名を連ねる少女。
​当時は不真面目な女学生としていたが、この戦いを通じて学者を志すように。

​日夜、研究の毎日を過ごしているが、たまにゾンビ狩りに駆り出されて、少々面倒くさそうである。
従妹の桜子とは、今でも連絡を取り合っているようだ。

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響納 リズ(ひびきな りず)

キサラとエンディカの転移に巻き込まれて、この事件に助力を申し出たグリモア猟兵の一人。

​年上の女性として、気品ある態度を取ってはいるが、実はドジっ子である。

​彼女の他にも数名のグリモア猟兵が、今回の事件に協力している。
 

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『第六猟兵』(C)柚葵チハヤ/紺屋サキチ様/トミーウォーカー

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